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INPEXは原子核同士を合体させてエネルギーを生み出す核融合発電に参入する。2022年内にも国内外の新興数社と資本提携する。核融合発電は原子力発電より安全性が高いとされ、脱炭素やエネルギー安全保障の切り札として欧米が先行する一方、日本は出遅れている。INPEXは大学などと連携する新興企業の技術を集積し、日本で本格的な開発を始める。
INPEXは京都大発の京都フュージョニアリング(京都府宇治市)、大阪大発のEX-Fusion(エクスフュージョン、大阪市)、ヘリカルフュージョン(東京・千代田)の新興3社に出資する検討に入った。海外企業とも資本提携へ協議している。合意されれば日本の大企業が核融合の関連企業に出資するのは初めて。まず22年内にも数億円ずつ出資し、最終的には最大数百億円まで出資枠を広げることも視野に入れる。
京都フュージョニアリングは19年に設立。核融合炉に不可欠な消耗の激しい部品の開発と生産に特化し、主に炉内で中性子と反応して熱エネルギーを取り出す部品を手掛ける。核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の出身者が設立したヘリカルフュージョンとエクスフュージョンは21年の設立で、核融合炉を開発している。INPEXは出資企業に技術者や研究拠点を提供して開発を支援する。
核融合発電は太陽と同じ核融合反応を地上で再現するため「地上の太陽」とも呼ばれる。発電には重水素と三重水素(トリチウム)を使う。いずれも海水中から取り出せるため、原料調達のハードルは低い。発電時に二酸化炭素(CO2)を出さず、発電が不安定な時は反応が止まる。原子力発電と比べ事故のリスクは低いとされる。
世界で商業炉はまだ存在せず、実用化への課題は多い。日米欧など主要国・地域が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)は当初2000年代の稼働を目指したものの、資材調達や技術開発の遅れで、現在は25年の完成を見込む。35年には火力発電並みの50万キロワットの熱出力を計画する。核融合炉は建設に数千億円と原子力発電所並みの費用がかかる。ITERの場合、研究費を含めた総事業費は2.5兆円を超える見込みだ。
放射性物質が出るため、処理技術や耐性部材も欠かせない。「低レベル放射性廃棄物」と呼ばれ、処理には数十年かかる。日本では大学や研究機関によって50年以上の研究実績と技術があるが、関連法の整備が進まず開発では出遅れている。INPEXは大学などと連携する新興企業に開発資金が流入すれば開発に弾みがつくとみており、40年代の実用化を掲げる政府目標をめざす。
核融合発電の開発は海外が先行する。欧州では各国の研究機関で構成するユーロフュージョンが22年2月、核融合の実験で過去の記録の2倍となるエネルギー量の発生に成功したと発表した。ITERの建設地もフランスにあり、技術者の集積が進む。
米調査会社クリーンテック・グループによると、19~20年の核融合分野の新興企業への投資額は計3.61億ドル(約440億円)と10~18年の合計額(2.58億ドル)を上回った。投資ファンドのほか、エクイノール(ノルウェー)や米シェブロンなど資源開発企業も出資する。米マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏らも資金支援に積極的だ。
NPEXの最大株主である経済産業省は、今回のINPEXの出資を通じ、日本でも核融合発電に対する資金の流れを太くする考えだ。政府は夏までに核融合の研究開発戦略を初めてつくる。早ければ40年代にも核融合発電ができる国産の実証炉の運転開始をめざす。核融合を原子力と同じ法律で規制している現行の法体系の見直しも検討する。
(向野崚、鈴木大祐)
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