例えば《侵食される均衡》と言った具合に、《侵食/均衡》という文字を使った負の表現が全編を覆っていた。
米国・民主党寄りの大手シンクタンク・カーネギー国際平和財団が5月に公表した《2030年の中国軍事力と米日同盟/戦略相対評価》という研究報告書に関する、小欄の第一印象である。報告書は、15~20年後の日米両国のアジア・太平洋地域における安全保障や日米同盟の「変わり果てた姿」を予見する。《侵食》する主体は、異常・異様な軍事拡大をひた走る中国であり、《侵食》されるのは日米両国…。報告書は、複数の仮説を併記した。
20年後の日米同盟の姿
《中国が米国を東アジアから駆逐せんと、中国VS米国/中国VS日本という全面的軍事衝突が勃発》
《日本周辺での中国VS日米同盟という軍事的『均衡』が絶対的/相対的、いずれの観点でも中国側に大きく傾いていく》
《日本の非常に近い海空域ですら、日米同盟がほんのわずかな軍事上の優位はもちろん、『均衡』をも保持する可能性が極小となる》
《中国が経済破綻し、軍拡より国内投資に重心を移動。軍事的脅威が大幅低減する》
《現在の戦略的構図が根本的に激変する確率は低い。ただ、日米同盟の大幅深化により、好戦的な中国との間で『アジア冷戦』を生む。或いは、米軍のアジア撤退による中国覇権の確立や、日本の核武装の可能性を含む軍事力強化で日中対立がエスカレートする可能性は残る》
ところが《最も発生確率の高い事態》はいずれでもない。報告書が到達した結論はこうだ。《日本の国防力や日米同盟がもたらす抑止力をも圧倒する軍拡を背景に、日本との紛争・競合を、軍事力行使を経ずに中国が求める形で徐々に『侵食』し、有利に決着してしまう》
中国が日本に仕掛けている「三戦」を彷彿させる。国際や係争相手国の世論を工作し、反中政策を抑止・転換させる「世論戦」、恫喝・懐柔で相手国の意志を挫く「心理戦」、国内外の法律を利用し反中政策を抑え込む「法律戦」-から成る「三戦」。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の問題に当てはめると、謀略の気配を身近に感じる。では、日米同盟として、どう対処すべきか。
中国の「三戦」に対処
(1)現在、米国防総省が進める『エア・シー・バトル=海空戦』に基づき、航空・海上優勢確保などを核とする配備を大規模・強化。中国に対する戦域的優位を維持する。海空戦は陸・海・空・宇宙・サイバー5空間の垣根を越え、同盟国の軍事力支援も含め、持てる戦力を効果的/立体的に運用。米空母打撃群が攻撃される前に、中国内陸部の基地攻撃まで視野にする攻勢的統合作戦だ。
(2)日米同盟は軍事優位を目指すものの、中国内陸部への爆撃など、予防攻撃的準備は回避。《均衡》の重点を、抑止力と信頼の双方に置く。
(3)中国との間で相互に領域接近を止め、後方配備への依存度を高める抑制の効いた防衛態勢を整える。西太平洋全域で、中国とより《均衡》のとれた協力的力関係を樹立する。
ベクトルが違う3提案に、小欄は衝撃を受けた。専門家が最も避けるべき、逃げ道を用意した、中国が如何様に出てきても弁解できる、“卑怯”の誹りを免れぬ提案だったためだ。元国防総省日本部長や元国家安全保障会議アジア上級部長、中国軍研究者ら超党派の実務エキスパート9人が、数年かけ作成した力作なだけに意外でもあった。報告書は、もはや《全能の解決策は存在しない。当事者を全て一気に満足させ、軍事・政治面での理想的『均衡』をもたらす単一の対応は不可能》と、限界を告白してもいる。
確かに読み返すと、分析の難しさ故の複数提案ではあったが、3提案を情勢に応じ使い分け、最悪の結果を回避する狙いも感じた。そうであっても、使い分け=受け身の姿勢を見透かされ、中国ペースに翻弄される危険は払拭できない。
現状維持は不可能
縷縷記してきたように《日米》という表現が随所に在る。ただし、米国は西太平洋~南シナ海に至る権益を重大視しているが、より直接影響を受けるのは2つの海の間に浮かぶ日本。報告書も《戦略的『均衡』の変化を最も痛感させられるのは、自らの安全保障を米国との同盟関係に長年依存してきたアジアの経済大国・日本かもしれぬ》と看破する。それ故《恐らく日本は(尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲だと、米国の保証を欲したように)米国に一層しがみつく》とも分析する。
もっとも《(安全保障や日米同盟を非常に重視する)安倍政権でさえ、ワシントンの一部が期待する自国の安全保障の底上げや対米協力強化には限界がある》と悲観。その理由を《財政難や政治的麻痺》と指摘する。
一方《日米両軍の役割・任務激変》も有り得る事態に直面しており《政治的障害が予見されようが、日米両国は政治・軍事面での新政策を真剣に講じなければならない》と警告する。《現在の経済・軍事的潮流を展望すれば、現行政策・戦略では長期的に、日米両国益に合致する安定した安全保障環境を保てない/現状維持は不可能なのが確実》だからだ。
ところで、報告書が列記した仮説の内《最も極端な事例》は以下だった。
《中国の日本周辺での軍事行動が激化し続ければ、日本をして経済・貿易面での対中傾斜を招きかねない。日米同盟や米国による抑止力依存に疑念も深める。日本の世論が日本独自の国防力強化を支持し、核武装への動きにつながる恐れもある》
この点に関連、報告書は《日米両国が中国の大軍拡に効果的に対処せねば、東アジア全体での深刻な政治・軍事危機を招き、同盟が弱体化し、地域全体の安定を『侵食』する》と謳う。
日米同盟が死活的である現実を、米国の専門家が認識している文脈ともとれる。それでも尚、米国の歴代知識・指導層が陰日向に抱いてきた中国への「憧れ」は続くと、小欄は観る。
「侵食」とは「(領土や市場を)次第に侵し呑み込んでいく状態」も指す。同時に、報告書に登場する英語の侵食=ERODEには「(病気に体が)蝕まれる」「(酸などが金属を)腐食する」という意味もある。
語意の持つ不気味に、米国はもっと戦慄しても良い。(SANKEI EXPRESS 政治部専門委員 野口裕之)
例えば《侵食される均衡》と言った具合に、《侵食/均衡》という文字を使った負の表現が全編を覆っていた。
米国・民主党寄りの大手シンクタンク・カーネギー国際平和財団が5月に公表した《2030年の中国軍事力と米日同盟/戦略相対評価》という研究報告書に関する、小欄の第一印象である。報告書は、15~20年後の日米両国のアジア・太平洋地域における安全保障や日米同盟の「変わり果てた姿」を予見する。《侵食》する主体は、異常・異様な軍事拡大をひた走る中国であり、《侵食》されるのは日米両国…。報告書は、複数の仮説を併記した。
20年後の日米同盟の姿
《中国が米国を東アジアから駆逐せんと、中国VS米国/中国VS日本という全面的軍事衝突が勃発》
《日本周辺での中国VS日米同盟という軍事的『均衡』が絶対的/相対的、いずれの観点でも中国側に大きく傾いていく》
《日本の非常に近い海空域ですら、日米同盟がほんのわずかな軍事上の優位はもちろん、『均衡』をも保持する可能性が極小となる》
《中国が経済破綻し、軍拡より国内投資に重心を移動。軍事的脅威が大幅低減する》
《現在の戦略的構図が根本的に激変する確率は低い。ただ、日米同盟の大幅深化により、好戦的な中国との間で『アジア冷戦』を生む。或いは、米軍のアジア撤退による中国覇権の確立や、日本の核武装の可能性を含む軍事力強化で日中対立がエスカレートする可能性は残る》
ところが《最も発生確率の高い事態》はいずれでもない。報告書が到達した結論はこうだ。《日本の国防力や日米同盟がもたらす抑止力をも圧倒する軍拡を背景に、日本との紛争・競合を、軍事力行使を経ずに中国が求める形で徐々に『侵食』し、有利に決着してしまう》
中国が日本に仕掛けている「三戦」を彷彿させる。国際や係争相手国の世論を工作し、反中政策を抑止・転換させる「世論戦」、恫喝・懐柔で相手国の意志を挫く「心理戦」、国内外の法律を利用し反中政策を抑え込む「法律戦」-から成る「三戦」。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の問題に当てはめると、謀略の気配を身近に感じる。では、日米同盟として、どう対処すべきか。
中国の「三戦」に対処
(1)現在、米国防総省が進める『エア・シー・バトル=海空戦』に基づき、航空・海上優勢確保などを核とする配備を大規模・強化。中国に対する戦域的優位を維持する。海空戦は陸・海・空・宇宙・サイバー5空間の垣根を越え、同盟国の軍事力支援も含め、持てる戦力を効果的/立体的に運用。米空母打撃群が攻撃される前に、中国内陸部の基地攻撃まで視野にする攻勢的統合作戦だ。
(2)日米同盟は軍事優位を目指すものの、中国内陸部への爆撃など、予防攻撃的準備は回避。《均衡》の重点を、抑止力と信頼の双方に置く。
(3)中国との間で相互に領域接近を止め、後方配備への依存度を高める抑制の効いた防衛態勢を整える。西太平洋全域で、中国とより《均衡》のとれた協力的力関係を樹立する。
ベクトルが違う3提案に、小欄は衝撃を受けた。専門家が最も避けるべき、逃げ道を用意した、中国が如何様に出てきても弁解できる、“卑怯”の誹りを免れぬ提案だったためだ。元国防総省日本部長や元国家安全保障会議アジア上級部長、中国軍研究者ら超党派の実務エキスパート9人が、数年かけ作成した力作なだけに意外でもあった。報告書は、もはや《全能の解決策は存在しない。当事者を全て一気に満足させ、軍事・政治面での理想的『均衡』をもたらす単一の対応は不可能》と、限界を告白してもいる。
確かに読み返すと、分析の難しさ故の複数提案ではあったが、3提案を情勢に応じ使い分け、最悪の結果を回避する狙いも感じた。そうであっても、使い分け=受け身の姿勢を見透かされ、中国ペースに翻弄される危険は払拭できない。
現状維持は不可能
縷縷記してきたように《日米》という表現が随所に在る。ただし、米国は西太平洋~南シナ海に至る権益を重大視しているが、より直接影響を受けるのは2つの海の間に浮かぶ日本。報告書も《戦略的『均衡』の変化を最も痛感させられるのは、自らの安全保障を米国との同盟関係に長年依存してきたアジアの経済大国・日本かもしれぬ》と看破する。それ故《恐らく日本は(尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲だと、米国の保証を欲したように)米国に一層しがみつく》とも分析する。
もっとも《(安全保障や日米同盟を非常に重視する)安倍政権でさえ、ワシントンの一部が期待する自国の安全保障の底上げや対米協力強化には限界がある》と悲観。その理由を《財政難や政治的麻痺》と指摘する。
一方《日米両軍の役割・任務激変》も有り得る事態に直面しており《政治的障害が予見されようが、日米両国は政治・軍事面での新政策を真剣に講じなければならない》と警告する。《現在の経済・軍事的潮流を展望すれば、現行政策・戦略では長期的に、日米両国益に合致する安定した安全保障環境を保てない/現状維持は不可能なのが確実》だからだ。
ところで、報告書が列記した仮説の内《最も極端な事例》は以下だった。
《中国の日本周辺での軍事行動が激化し続ければ、日本をして経済・貿易面での対中傾斜を招きかねない。日米同盟や米国による抑止力依存に疑念も深める。日本の世論が日本独自の国防力強化を支持し、核武装への動きにつながる恐れもある》
この点に関連、報告書は《日米両国が中国の大軍拡に効果的に対処せねば、東アジア全体での深刻な政治・軍事危機を招き、同盟が弱体化し、地域全体の安定を『侵食』する》と謳う。
日米同盟が死活的である現実を、米国の専門家が認識している文脈ともとれる。それでも尚、米国の歴代知識・指導層が陰日向に抱いてきた中国への「憧れ」は続くと、小欄は観る。
「侵食」とは「(領土や市場を)次第に侵し呑み込んでいく状態」も指す。同時に、報告書に登場する英語の侵食=ERODEには「(病気に体が)蝕まれる」「(酸などが金属を)腐食する」という意味もある。
語意の持つ不気味に、米国はもっと戦慄しても良い。(SANKEI EXPRESS 政治部専門委員 野口裕之)
関連ニュース
筆者考:
★【米国・民主党寄りの大手シンクタンク・カーネギー国際平和財団が5月に公表した《2030年の中国軍事力と米日同盟/戦略相対評価》という研究報告書】
2013/05/23(木) 10:00〜12:00、日本財団ビル2階 会議室(港区赤坂1-2-2)で講演で軍事力/準軍事力だけの比較だけでなく、政治・経済・社会・文化など国内の非軍事分野や日米中以外の周辺領域からの外的影響も考慮にいれて多面的に分析し発表されたものです。
【登壇者】
マイケル・スウェイン (カーネギー国際平和財団上席研究員)/マイク・モチヅキ (ジョージ・ワシントン大学教授)/山口昇 (東京財団上席研究員、防衛大学校教授)/渡部恒雄 (東京財団上席研究員兼政策研究ディレクター)/小原凡司 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)
【モデレーター】
浅野貴昭 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)
★【米国・民主党寄りの大手シンクタンク・カーネギー国際平和財団が5月に公表した《2030年の中国軍事力と米日同盟/戦略相対評価》という研究報告書】
2013/05/23(木) 10:00〜12:00、日本財団ビル2階 会議室(港区赤坂1-2-2)で講演で軍事力/準軍事力だけの比較だけでなく、政治・経済・社会・文化など国内の非軍事分野や日米中以外の周辺領域からの外的影響も考慮にいれて多面的に分析し発表されたものです。
【登壇者】
マイケル・スウェイン (カーネギー国際平和財団上席研究員)/マイク・モチヅキ (ジョージ・ワシントン大学教授)/山口昇 (東京財団上席研究員、防衛大学校教授)/渡部恒雄 (東京財団上席研究員兼政策研究ディレクター)/小原凡司 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)
【モデレーター】
浅野貴昭 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)
流石は米民主党寄りのシンクタンクの「カーネギー国際平和財団」の研究員が分析した報告書ですね!・・・驚くばかりに支那の総合力を過大評価して、ある面で米国、日本国を過少評価しているは、米民主党の伝統的な支那大陸への浪漫的な思い入れが為した業なのか?、筆者は全面的に賛同は出来ません!。
日本側の登壇者も全てが東京財団に属する研究員であり、「カナネギー国際平和団体」との繋がり(運営資金の支援)があるのか?、調べてみたいものですが、残念ながら時間が無いのと筆者の調査能力が卓越からおよそ懸け離れているので諦めます。
★【東京財団】
沿革 1997年(平成9年)7月 設立
代表者 理事長 秋山昌廣
所在地 東京都港区赤坂一丁目2-2 日本財団ビル3階
公益財団法人東京財団は、外交や経済等の分野における政策研究・提言と、奨学基金の運営を行うシンクタンクである。現理事長は元防衛事務次官の秋山昌廣である。
1997年(平成9年)に【日本財団=公益財団法人日本財団!・・・公営競技のひとつである競艇の収益金をもとに、海洋船舶関連事業の支援や公益・福祉事業、国際協力事業を主に行なっている公益財団法人】により「国際研究奨学財団」として設立された財団法人であり、
1999年(平成11年)に★【東京財団】に名称変更された。財団の基本財産は357億円。
歴代理事長
加藤秀樹(–2012年6月[1])
秋山昌廣(2012年6月–現任)
4つの使命!・・・
✦国内外におけるさまざまな物事の本質について調査研究し、日本の将来を見据えた具体的な政策の提言を行う。
✦提言した政策の実現に向けて、一党一派に与することなく、幅広い層の人々に対してわかりやすく情報を提供し、社会的な運動につなげたり、政治の現場での実現を促す。
✦民族、文化、宗教、思想、政治体制などの多様性を理解、尊重しながら、国際社会が直面する複雑かつ深刻な諸問題を解決しうる国内外の人材を発掘し、次世代の知的リーダーとして育成する。
✦国内外の秀逸な知性、行動力を、多様な文化力、情報発信能力などを持った人材が自ずと集まり、人と人の結びつきや情報の共有自体が新たな価値を生むような場を創造する。
※財団の基本財産は357億円!・・・日本財団が設立したのなら公的資金が使われている事になるので、研究員が研究、調査結果を発表する時は、ある程度は時の政権の意向を伺うは当然でなるでしょう。(以上ウイキペディア引用)
米国・民主党寄りの「大手シンクタンク・カーネギー国際平和財団」が5月に公表した《2030年の中国軍事力と米日同盟/戦略相対評価》という研究報告書に述べられている仮説に筆者は全面的に賛同処は反論したいくらいです。
1980年代冷戦がたけなわの時代、米国レーガン大統領と英国サッチャー首相の見事!の一語に尽きる二人三脚でソ連の野望を挫いた戦略 ※【当時は両国とも経済は衰退の一途を辿っており、・・・果敢に保守革命ともいえる政策を採り、財政難の直面していながらも軍事力を充実させ、ソ連に一指だを触れさせぬ気概を見せて、ソ連の自壊を辛抱強く待った結果はソ連の財政を疲弊させ崩壊の最大の原因となった!】は今でも記憶にあたらしく、日米両国の政権は此れを備に検証して今の時勢と重ねて、時代背景(グローバル化で支那が最も恩恵を受けて世界市場を席巻している現在)が違うとはいえ、本質的なものは同じであると認識して、日米は嘗ての米英が採った戦略を検証して、「嘗てソ連が辿った道を支那を追い込むみ自壊させる事」を筆者は切望して止みません!。
支那に配慮し過ぎる「米国屁たれコンビ=オバマ大統領とケリー国長官」では多くを望む術は有りませんが、3年5ヶ月後には新しい大統領が誕生する!・・・此れに、誰が成るかで支那の野望が続くのか?、または挫折するかが、分かるでしょう。
共和党に人材が欠乏しており、予断は許しませんが、楽観的に考える事に筆者はしました。
【参考文書】
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