本社コメンテーター 中山淳史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD120S50S2A110C2000000/?n_cid=NMAIL007_20220114_Y&unlock=1
20世紀初頭の自動車産業の黎明(れいめい)期、米国には新規参入をめざす企業が200社以上存在したという。電気自動車(EV)への転換期を迎えた現在も状況は似ている。
米見本市「CES」でEVの新会社設立を表明したソニーグループもそんな企業の一つだ。責任者の川西泉常務は会場のラスベガスからオンライン取材に応じ、「やることのリスクより、やらないことのリスクが大きい」と語った。
ソニーは自動車や産業機械に欠かせない画像センサーのサプライヤーだ。業界の慣習で言えば、自動車メーカーに多くの顧客を持つ部品メーカーが完成車に参入するのはタブーかもしれない。だが同社には、これまで自動車メーカーが持ち得なかったデジタル技術による顧客経験、いわゆる「ユーザーエクスペリエンス(使いやすさ、楽しさ)」に関連したノウハウや技術が多数ある。
エンターテインメントのサブスクリプション(定額課金)、ソフトウエアによる機能や性能のアップデート、MaaS(次世代移動サービス)、メンテナンスに保険を連携させた課金、サイバー空間上に現実を再現するデジタルツインとの同期……。
現実から仮想空間へとビジネスが拡大する中で、可能性は無限に広がる。自動車産業はもはや20世紀のように巨大な固定資産を抱え、ものづくりを通じて付加価値を追うだけではない。「世界観」「価値観」が競争の舞台であり、そうした領域では米国のアップル、マイクロソフトなどとのガチンコ勝負も起きる。不戦敗は許されないということだろう。
「2022年はデジタル経済圏が広がる転換期に」
今後の産業競争について、米コラムニストのトーマス・フリードマン氏は「変化を加速する3つの力」を著書「遅刻してくれて、ありがとう」で指摘する。3つとは、地球温暖化、経済の相互依存、指数関数的な半導体の高集積化(ムーアの法則)だ。
いずれも「脱炭素の世界的潮流」「グローバル供給網」「デジタル技術」と言い換えることが可能だ。とりわけムーアの法則にしたがって進化したデジタル技術は、あらゆるモノがネットとつながるIoTのほか、仮想空間のメタバース、ブロックチェーン(分散型台帳)などを生み、広告や電子商取引が中心だったデジタル化された経済圏に車や住宅、都市など現実空間全般を取り込んでいく。「2022年はそうした時代の最初の年だった」と後世の歴史家たちは振り返るかもしれない。
ただし、技術の高度化が進めば進むほど、あるいは脱炭素の世界的な潮流とグローバル供給網への依存度が強まれば強まるほど、「企業は行動を縛られる」懸念もあるだろう。
そのひとつが米中間などで続くハイテク技術のデカップリング(分断)だ。フリードマン氏は問題の背景を民生用での技術革新が軍事用にも転用可能になる「デュアルユース性」に求める。
米政治リスク調査会社、ユーラシア・グループは先週公表した22年の「10大リスク」に「価値観の衝突(culture wars)に敗れるグローバル企業」を入れた。政治対立とともに「環境や人権への対応で企業が高いコストを強いられる」というものだ。
アパレルから半導体企業までを巻き込んだ、新疆ウイグル自治区からの輸入禁止や北京冬季五輪の外交ボイコットなどが該当する。自動車では欧州で決まった35年からのガソリン車の販売禁止や電池リサイクルの義務化も環境対応を超えて自国産業保護の思惑が絡み、戸惑う企業は多い。
米国のEV政策は大統領選次第
今年は中間選挙、24年は大統領選挙が控える。仮に大統領選で民主党候補が勝てばEV政策は続く。共和党候補が勝てば、石油産業を支援したトランプ前大統領時代の環境政策にまで後退、またはEV政策が凍結される可能性もないわけではない。日本企業にはビジネスを超えたところで翻弄されやすい要素が残るわけだ。
中国は昨年、EV販売が世界で最も好調だった。スタートアップ企業が雨後のたけのこのように誕生し、システムのアップデートや自動運転機能のついた車が売れたが、政府の統制には常に目が離せない市場でもある。
試される強じんさとしなやかさ
世界経済フォーラムなどと「グローバルリスク報告書」を毎年1月に発表する米保険グループ、マーシュの平賀暁マネジングディレクターは「5G(第5世代移動通信システム)と半導体で始まった米中対立が今後、EVの電池、人工知能(AI)、ロボット、量子計算にも及ぶ」とみる。
技術をめぐるリスクは今後もつきまとう。企業は成長を追う存在である以上、前に進むしかないが、一段と強じんさとしなやかさが試される時代に向かう。
日経新聞は支那の意向を汲んで、以前から反トランプ色が濃かったのは周知の事実であり、トランプ氏の復活を快くは思っていない事が上述の文脈から窺い知れる。
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