今月24日、訪日中の米大統領のバラク・オバマが、分刻みの忙しさをやりくりして向かったのは、お台場の日本科学未来館だった。
ホンダのアシモとサッカーに興じたあと、オバマは開発途上の青いロボットと向き合った。スーツ姿の大統領の前にあらわれたのは、普段着のシャツによれよれのジーンズ姿の日本の2人の若者だった。
 「このロボットは何に使うのですか」とオバマ。「東京電力福島第一原発のように人が入れない場所で、代わりに作業します」「いま魂をかけて開発しています」。そう答えたのは、元東大助教の中西雄飛と浦田順一。
 昨年11月、グーグルに買収されて以来、シャフトは沈黙を守ってきた。
 その共同創業者2人が、グーグル傘下のロボット企業の代表として、久しぶりに姿を現した。
 シャフトは、浦田と中西が中心となり、わずか2年前に設立されたベンチャーである。2人は、日本のロボット研究の本流である東大教授、稲葉雅幸の門下生だった。
 経済産業省は1998年度以降、ヒト型ロボットを開発しようと、45億円強を投じた。「アシモ」の原型となるロボットP3をベースにHRPシリーズを開発。そのひとつHRP―2を使って研究してきたのが、東大の稲葉研究室だった。
 「浦田君は技術的にピカイチ、中西君は人間的にピカイチ」。2人を育てた稲葉は評する。
 原発事故当時、ロボットは期待ほどの働きができなかった。「福島の現場で何もできないのが非常に残念」。浦田がそう悲しむのを友人は聞いた。がれきが積み重なる事故現場で、ヒト型ロボットは転倒しやすく使えなかった。
 浦田と中西は、その壁の突破を試みた。
 いま31歳になる浦田が開発したのは、高速で動く強力なモーターと、どこに足をつけばよいのかを瞬時に計算するソフトだった。その足は「ウラタレッグ」と呼ばれる。2人と親交のある産業技術総合研究所の加賀美聡は「シャフトの意義は不整地で歩けるロボットを開発したこと」とみる。
 ダーパのコンテストのねらいは、軍事費に由来する資金で米国内外の有望技術を集めることにある。東大に籍をおいたままでは軍事費を背景にしたコンテストに出にくい。2人は助教の立場を捨て起業を決意。稲葉は「辞めれば、僕らの本気度を投資家にわかってもらえる」と彼らが話すのを覚えている。
 だが、開発資金集めは難航した。資金回収の見通しがつかないロボット開発に、国内のベンチャーキャピタルは二の足を踏む。社外取締役の鎌田富久は旧知のグーグルのアンディ・ルービンに話をつないだ。ルービンは、スマートフォンの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の開発責任者を務めた人物で、いま担当しているのがロボット開発だった。渡りに船とばかりに、ルービンは13年11月、シャフトを買収した。
 グーグルは、日本のさまざまな技術を取り込もうとしているように見える。コンテストから1カ月後の今年1月9日。早稲田大教授の高西淳夫の研究室に、中西と、やはりグーグルに買収されたばかりのロボットベンチャー、ボストン・ダイナミクス創業者のマーク・レイバートらが訪れた。早大は73年に世界初の本格的なヒト型ロボットを開発し、東大と並ぶロボット研究の中心だ。
 共同研究を持ちかけられた高西が「グーグルはいったい何をするつもりなのか」と尋ねると、レイバートはこう返した。「それは言えないよ」
 人材集めにも余念がない。稲葉は「私の研究室から10人がグーグルに行った」と打ち明ける。ソニーでもアイボの開発にかかわったエース級の中堅がグーグルに転じている。
 そのねらいは、ベールに包まれたままだが、おぼろげながらうかがえるのは、次世代のロボット技術をすべて取り込むことだ。

会長のエリック・シュミットは近著「第五の権力」で「近いうちに米国の一般家庭でも数台の多目的ロボットを持てるようになるだろう」とみる。
 それはどんなロボットか。日本法人元社長の村上憲郎は「コンピューターが執事になる」と予測する。家庭にいるロボットが、主人の質問をネットで瞬時に検索して答えたり、掃除や調理をこなしたりする未来が訪れるかもしれない。
 グーグルはその先に、ロボットの頭脳を握ろうとしているようにみえる。同社は「クラウド(雲)ロボティクス」と呼ばれる技術を11年に提唱。サイバー空間上の巨大な「頭脳」に、ネットを通じて家庭や工場にあるロボットがつながるイメージだ。
 それはグーグルがロボットすべての頭脳を支配することも意味する。「ものづくり」の延長線上でロボットを考えてきた日本とは、まったく違う発想だ。
 ロボットが期待されるのは時代の要請でもある。米アイロボット社創業者、ロドニー・ブルックスは「多くの先進国では高齢者が増え、若年者が減っている。それに、日本では、老朽化するインフラを点検・修理する労働力をどう確保するのか。ロボットこそが、問題解決のカギを握る」と語る。
 シャフト買収に大きな衝撃を受けたのは、日本のロボット開発を後押ししてきた経産省だ。経産省は、ロボット技術で米政府と協力を深めようとしていた矢先に、国内の有望企業が米国に流出したからだ。
 経産省は、昨年7月、米国防総省と災害対応ロボットの日米共同研究で合意。来年開催されるダーパの最終コンテストに日本が参加することが目玉だった。経産省は「武器輸出三原則には抵触しない」と説明するが、同省から打診されたトヨタ自動車ホンダは軍事色を嫌い、参加を固辞。策が尽きた同省は日本からの挑戦者を広く公募し、選ばれた者には開発資金などを補助すると公表した。
 「果たしてこれでいいのか。共同研究で合意したとはいえ、米国は追い上げてくる競争相手でもある」。同省幹部からは、そんな懐疑的な声も漏れる。
 突如始まったロボットをめぐるテクノロジー覇権競争。米国は、先行する日本に照準をあわせる。
 ソ連のスプートニク打ち上げに衝撃を受けた米国はNASAを設け、月着陸を実現したアポロ計画を始めた。日本の半導体攻勢に悩まされると、国防総省が中心になって産官学の共同研究機関を設け、技術革新に挑んだ。そしてダーパやグーグルの動き――。
 研究者たちは、日本のロボットテクノロジー自体は、今でも世界を牽引(けんいん)しているとの見方で一致する。名古屋大教授の新井史人は「日本はものづくりの国。モーターやセンサーなどの技術力は高い」と言う。
 ただ、課題は、ハードを動かすソフトにある。産総研でロボットを研究してきた横井一仁は「産業用ではまだリードしているが、ヒト型はかなり混沌(こんとん)としてきた。ソフトの世界では米国がかなり進んでいる」と打ち明ける。
 頭脳は米国がつくり、ハードの機器は中国が量産する。エレクトロニクス産業ではそれが現実に起きた。「手をこまねいていると、ロボットの世界でも起きかねない」。シャフト創業者と同窓のロボット研究者はそう語った。=敬称略(大鹿靖明、高山裕喜、嘉幡久敬)
                                                       
筆者考:
インターネット検索最大手の米グーグルが東大発のロボット開発ベンチャー「シャフト」を買収した経緯をめぐって波紋が広がっている。
シャフトの開発には国費が投じられているが、官民ファンドである産業革新機構に追加支援を依頼したところ断られ、やむを得ずグーグルに売却することになった経緯が明らかにされると同時に、最先端技術、次の産業革命はロボット技術から派生する事が確実視されている現今、日本国の未来が懸かるロボット技術が国費を投じながら米国IT巨人グーグルに意図も容易く買収されて仕舞った事!は、・・・グーグル社に限らずに、米国巨大先端企業の日本の頭脳買収が今後も数多起きる事が想定される不吉な前兆!と言える。
★ シャフトの技術は、産業技術総合研究所での研究がベースになっており、日経新聞の報道によると、金額は明かされていないものの、その開発には国費が投入されているという!・・・
★ ベンチャー「シャフト」は 2013年12月に開催された米国のロボット競技会で優勝し、その前後にグーグルによる買収が発表された。同競技会は、米国防総省国防高等研究計画局が主催しているもので、その目的はズバリ、軍事用ロボットの開発である!・・・
★  東京大学は戦後一貫して軍事に関する研究を遠ざけてきた。世界の主要国は産学官軍が協力し、安全保障の研究開発にしのぎを削っている中で、日本では学外・国外への「頭脳流出」が目立つ。憲法に規定される「学問の自由」にも抵触しかねず、今後、大学側の姿勢が問われそうだ!・・・

★ 《シャフトは国内企業に資金提供を依頼したが断られ、官民ファンドである産業革新機構にも打診をしたもののやはり断られたという。グーグルだけが資金提供を申し出たことで買収に至ったとされる》 ⇔ 《 こうした状況に対して憂慮する声が上がっているわけだが、もっとも危惧されるのは、国による支援体制をさらに強化せよという声が高まることである。これは完全に逆効果となる可能性が高い》・・・非常に微妙な問題であり単に国が支援し資金を投入するとなると、 官民ファンドである産業革新機構もその概念に基づいて設立された組織なのだが、官というもっとも保守的な組織が、将来有望な技術を見極め、計画的に育成することができるほど、イノベーションや国際競争の世界は甘くない。加えて動脈硬化を起こしている官組織が不必要な制約を掛けて金の卵を産む鶏を殺す結果となる恐れが非常に高い。

米国は1990年代に古い産業構造を捨て去り、ハイテク中心の産業体制の構築にいち早く着手した結果が、グーグル、マイクロソフト、アップル、アマゾン、シスコ、フェースブックなどのIT巨大企業が誕生し今ではこれ等の企業が世界を席巻している。 
 金融改革(規制緩和)でベンチャー・ファンドが設立し易くなり、有望な技術の開発資金が得られ易くなった事が米国のIT産業が世界に先駆けて発展した最大の要因と言える。
 翻って日本は「バブル・バースト=バブル破裂」の後遺症に悩まされ、加えて1990年代前半に飛び出した河野談話や村山談話から派生した種々の問題(特亜賠償)に悩まされた事が原因で経済成長が止まり「不毛の20年」の沈滞期に突入した。
日本歴代の政権が特亜への配慮を重ね過ぎて、肝心の国内に蟠る問題を一顧だにせず!、・・・亦「政・官・財」には「事勿れ主義」が蔓延し国家観や将来を見据えた展望がなく、いたずらに時の推移に委ねた結果は産業構造の改革の遅れとなり、・・・特に官ではなくて民間ベースのベンチャー・キャピタル市場が育たなかったのは痛恨の限りです。

 ★ 《経済産業省は1998年度以降、ヒト型ロボットを開発しようと、45億円強を投じた。「アシモ」の原型となるロボットP3をベースにHRPシリーズを開発した。そのひとつHRP―2を使って研究してきたのが、東大の稲葉研究室だった ⇔ シャフトの共同経営者の元東大助教の中西雄飛と浦田順一日本のロボット研究の本流である東大教授、稲葉雅幸の門下生だった》・・・
東大の稲葉研究室で研究、蓄積された技術は経済産業省が45億円を投じており、研究所を飛び出しシャフトを創業したのは結構だが、問題は研究所で開発された技術特許などが「シャフト」に移行する事には違和感を持ちます。
技術者特有な利己主義(己の研究完結の為に誰にでも身を捧げる)が旺盛!と筆者の目に映る!。
筆者も技術畑の人間ですが、若い頃は眠る時間をも惜しんで深夜、回路設計に没頭していましが、・・・資金面での不足は何とか遣り繰りして、己の願望の為に会社を飛び出し競争会社に身を投ずる事など言語道断!との古い考えの人間には、・・・シャフトの共同経営者の元東大助教の中西雄飛と浦田順一の両人には,例え優れた研究者であり、素晴らしい功績を残しても素直には賛辞の言葉を筆者は贈れません。
戦前の教育の残り香に包まれた教師(小学校時代)の教鞭を受けた所為か!、古いタイプの人間であり、所詮は時代に取り残され、・・・元東大助教の中西雄飛と浦田順一の両人の行動には付いては行けません。

“此の侭で推移すると、日本の頭脳の殆どは米国企業に買われて仕舞うでしょう!”・・・

安倍政権は経済特区や移民政策などには前のめりにならず、足元の火(頭脳流失)を消す為の法整備(投資しやすい環境、金融改革=民間ベースのベンチャー・キャピタル市場の構築)を優先すべき!と筆者は言わざるを得ません。