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【この記事のポイント】
・ホンダ、アップルなど脱中国の供給網を模索する動き
・深まる分断、中国から輸入止まると生産53兆円消失
・平時は事業伸ばし有事に備える対応策、問われる覚悟
米中対立の激化やウクライナ危機で世界のサプライチェーン(供給網)が分断されつつある。一体化していた供給網が民主主義と権威主義の国家間で引き裂かれ、機能不全が進む。日米欧は中国を世界経済から切り離す動きを強めるが、中国を外せば、あらゆる製品のコストが大きく上がる。世界に「ゼロチャイナ」への備えはあるのか。
今夏、ホンダで極秘のプロジェクトが本格化した。中国製の部品を極力使わずに乗用車やバイクを造れないか探る供給網の大規模な再編計画だ。
中国は車などで世界最大の市場だ。企業が収益力を高めるには中国での事業拡大が欠かせない。だが、台湾海峡で有事が起これば中国で事業を続けるか選択を迫られる。経営者は事業の継続性を常に考える必要がある。
▶︎ 事業継続見据え:
ホンダも車の世界販売に占める中国比率が3割強あり、今後も収益の柱にする方針は変わらない。今すぐ脱中国を進めるわけではないが、中国リスクと正面から向き合うのも、いざという場合への備えを平時から練り上げておくためだ。東南アジアなど他地域から調達した際のコストの試算などを急いでおり、逆に中国で造る車などの部品は中国内で調達する。
ホンダは「供給網のリスクヘッジについては常に様々な検討をしている」とコメントした。
果たしてゼロチャイナは可能なのか。
部品など中国から日本への輸入の8割(約1兆4000億円)が2カ月間途絶すると、家電や車、樹脂はもちろん、衣料品や食品もつくれなくなる。約53兆円分の生産額が消失する。早稲田大学の戸堂康之教授らがスーパーコンピューターの「富岳」で試算した。年間国内総生産(GDP)の1割に匹敵する額が吹き飛ぶことになる。
冷戦の終結後、グローバリズムは旧共産圏を取り込み、経済面で相互依存を高めた。特に日本は中国との結びつきが強い。輸入総額の中で中国から輸入する比率は2020年で日本が26%あり、米国(19%)やドイツ(11%)よりも大きい。中国での事業拡大は競争力の向上に不可欠だ。
▶︎ コスト14兆円増:個別の製品にコスト増を転嫁すると、パソコンの平均価格は5割上がり18万円に、スマホも2割高い約9万円になる。ウクライナ危機などでインフレが進むが価格の上昇幅はその比ではない。
国家は中国を供給網から排除する動きを強める。バイデン米政権は5月に日米やインドなど14カ国で「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を創設した。有事に各国が重要物資の情報を共有し、在庫を融通し合う危機対応を想定する。
企業も平時は中国で事業を続けつつ、万が一のリスクに備える必要がある。日本経済新聞が9月に実施した社長100人アンケートでは96%が台湾有事を「懸念している」とし、実際の有事を想定した事業継続策を82%が「ある」または「検討中」と答えた。
▶︎ アップルも脱中国:アップルはこれまで「iPhone」などほぼ全製品を中国で生産してきたが、最新型のiPhone14をインドで生産する。調査会社によると、インドでの生産比率は20年の1%から22年は最大7%にまで高まる見通しだ。
市場も中国リスクには敏感だ。QUICK・ファクトセットで世界の約1万3千社を中国の売上高比率ごとに分類し、平均株価の推移を09年末と比べた。中国比率が50~75%未満の企業の株価は足元で09年末より約1割安い。25%未満が6割上昇したのとは対照的だ。
冷戦時は東西の供給網がつながっておらず脱ソ連、脱中国は容易だった。現在は原料などの上流から製品組み立ての下流まで中国と密接に絡み合う。平時は中国での事業を伸ばしながら有事に備えて中国に頼らない供給網も整える。企業そして国家の覚悟が問われる。
▶︎ 供給網:▽…新型コロナウイルス禍やウクライナ危機で供給網は混乱が続く。世界の供給網の混乱度を示す米ニューヨーク連銀の「グローバル・サプライチェーン圧力指数」はコロナ禍前の2019年末の0.01から21年末に4.3まで上昇した。数値が高くなるほど混乱度が増す。足元では低下しつつあるが今後落ち着くかは見通せない。
▽…米中対立は激化している。米国は日欧と組んで中国を供給網から外す動きを強める。同盟国と友好国で供給網を再構築する「フレンドショアリング」と呼ばれる動きが加速している。最大の懸念は台湾海峡での軍事衝突だ。ダイキン工業は23年度中に有事に中国製部品が無くてもエアコンを生産できる供給網を構築する方針だ。
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