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10月の衆議院議員選挙では、日本維新の会が議席を大幅に増やした。議員に「ご説明」をする各省の官僚たちの間では、維新はすこぶる評判が悪いという。ただでさえ予算編成などで多忙な時期に、「お作法」を知らない同党の議員たちが追い打ちをかけているというのだ。各省の官僚への取材から、維新の不作法ぶりに迫った。(ジャーナリスト 横田由美子)
維新の議員は永田町や霞が関の
お作法」を知らない
財務省の中堅官僚は、そう言って頭の後ろで手を組んだ。
「落ち穂拾い」とは、各役所の大きな予算折衝後に余った数億レベルの枠を取り合うことを言う。もともと予算の少ない内閣府や司法・警察関係の担当者などは、少しでも多くの予算を確保しようとここで頑張る。
財務省の権力の源泉は、国家予算を各省に差配できることにあり、その額が大きければ大きいほど、持つ権限も大きくなる。国家予算の3割以上が社会保障に割かれる中、厚生労働第1主計官は、財務省随一の花形ポストだ。特に、社会保障費だけでなく、約30兆円の医療予算、新型コロナウイルス対策費なども扱う厚労第1担当主計官の一松旬氏(平成7年入省)は、重責も扱う額も大きい。
社会保障やコロナ関係となると、議員への説明は、与野党問わず中枢の政治家が相手となるので、主計官に加え、主計局次長やときには主計局長もセットとなって行われることが多い。選挙では、シニア層が投票率の主軸であること、厚労省のバックにいる日本医師会の後押しを受けたいと考える国会議員が多いことなどから、厚労族議員と呼ばれる国会議員は、約200名を超えるとみられる。そのため、厚労省の議員レクでは、主査や係長クラスも駆り出されて行われる。
衆院選後、議員への「ご説明」で官僚は忙殺
今年、官僚たちの仕事が後ろに押したのは、10月31日投開票の衆議院選挙で、躍進が予想されていた立憲民主党が議席を減らした一方、日本維新の会(維新)が選挙前勢力の11人から41人に増え、公明党を抜いて第3党に躍り出たことだ。この選挙は「世代交代選挙」という側面も持ち、与野党問わず、当選回数の多いシニア議員の落選と新人の当選が目立った。
前述の官僚はこう語る。
「それでも、維新以外は大量当選というわけではないので、ご説明も楽だったと思いますよ」
維新に関しては、第3党という自覚がないのではと思うほど、記者や官僚からの評判が悪い。全国紙の政治記者は次のようにこぼす。
「小泉、小沢、安倍チルドレンと同じ轍(てつ)は踏むな、ということかもしれないのですが、新人議員相手だと自由に取材することすらままならない。正式な申し入れをして、そこから党で諮り、許可が出るとようやく取材ができる。記事についてもいちいち『コメントを確認させろ』と党が要求してくる始末。まるでPTAです。新人とはいえ、彼らは公職に就いている立派な大人であり、この国のかじ取りを担う役割を任されたわけです。自分たちの発言に責任を取れないようなら、それは政治家ではない」
維新は、現大阪市長の松井一郎代表が記者からの呼びかけにこたえず、無視することも度々ある。非議員で2番目に勢力が大きい野党党首というのは、やはり無理があるのではと思ってしまう。松井代表のスタイルは大阪では通用しても、全国レベルでは許容されないだろう。
霞が関界隈で維新の評判が芳しくないのは、そのあたりに理由がありそうだ。支援金や給付金問題での醜態を1年以上にわたり国民にさらし続けている経産省の官僚ですら、こう語る。
「こうした党からは大人物は出ないでしょう。でも、党の懸念もわかります。維新の新人は、国政の現場を何も知らない政治の超素人か、血筋のよいサラブレッドに大別される。今回は、時流と世論にうまく乗って議席数が大幅増となりましたが、次回は揺り戻しがあるでしょう。財務省などの主要官庁では、維新の新人さんには、Aランクの新人官僚を勉強のために説明に行かせていたと聞きます。一方、第1次岸田政権から、閣僚の顔ぶれはあまり変わっていませんし、新人議員への説明は、大して意味を持たない」
ベテランの秘書が維新の新人議員を支える?
そこで、前述の財務省官僚に再び話を聞いた。彼は、自分の仕事はほとんど終わったということで余裕のある顔つきだった。そして、経産官僚の言葉を否定しなかっただけでなく、こう付け加えた。
「診療報酬の決着は毎回ギリギリですし、コロナ関係も完全には終わっていないので、厚労関係の担当者は徹夜続きですから大声では話せませんが……。僕の感覚では、選挙で押した予算編成に大きな混乱が生じなかったのは、古参の政策秘書やベテランの秘書が維新を中心とした新人議員の事務所に流れたからだと思いますよ」
議員が落選した途端、秘書たちも全員無職になり、再就職先探しに躍起となる。一人の議員に長く仕えていた古参の秘書ほど、身の振り方は厄介だ。議員バッジが世襲されれば、そのままスライドすればよいだけだが、大方は、失職した議員や党からの口利き、秘書同士のつながりをたどって新たな勤め先(議員事務所)を探す。
全くの新人議員の事務所ほど、彼らのようなノウハウを持ち、政策立案ができる秘書を欲している。お互いのニーズが合致すれば、党を超えて再就職するケースは多い。彼らの誘導のおかげで、大した混乱もなく、国会運営も予算編成も進んだというわけだ。
とはいえ、維新には改めて、国政で3番目の勢力を持つ党としての自覚を持ち、襟を正してほしいと思う。
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